INDEX
1.
アトピー性皮膚炎とは
2.
アトピー性皮膚炎の原因
3.
アトピー性皮膚炎の症状
4.
アトピー性皮膚炎の診断
5.
アトピー性皮膚炎の検査
6.
アトピー性皮膚炎の治療
6-1
アトピー性皮膚炎の「外用療法」
6-2
アトピー性皮膚炎の「全身療法」
6-2-1
生物学的製剤
6-2-2
JAK阻害薬
6-3
スキンケア
7.
予防と日常生活での注意点
1. アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎 とは、慢性的にかゆみを伴う湿疹と皮膚の炎症がおこる病気です。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す炎症(湿疹)があらわれます。アトピー性皮膚炎の有病率は、小学1年生であれば17%ほど、中学生になると10%まで下がり、重症度も年齢とともに低くなっていくことから、症状は成長とともに良くなることが多いといわれていました。
しかしながら、以前は乳幼児に発症することが比較的多いといわれていましたアトピー性皮膚炎ですが、最近では、大人になってもなかなか治らなかったり、成人になってから急に発症する場合が増えたりしています。
2. アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎の原因としては、大きく2つの要因に分けられます。
① 遺伝によるアトピー素因
ひとつは、遺伝的な要因によるものです。
アトピー素因とはアレルギーになりやすい体質のことで、親のアトピー性皮膚炎を受け継いだ場合があります。アトピー素因の方の特徴として、アレルギー反応の原因となる「IgE抗体」を作りやすく、アトピー素因は遺伝する傾向があるといわれています。
アトピー性皮膚炎に限らず、親がぜんそく、慢心蕁麻疹、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎といったアレルギー症状をお持ちの場合は、お子さまもアレルギー症状になりやすいケースが多いです。
② 皮膚のバリア機能の低下
もうひとつは、皮膚のバリア機能が弱いことや皮膚を守る機能が低下していることです。
皮膚を覆う角質層には油の膜があるので、体外からの刺激を防いだり、皮膚の内側にある水分が蒸散するのを防いだりする役割があります。しかし、アトピー性皮膚炎の肌は油分が少なく、乾燥肌となりやすいので日常生活の刺激の多くに反応してしまい、皮膚の炎症を起こしやすくなります。
日常生活で皮膚のバリア機能を低下させてしまう要因は、以下のものがあります。
子どもの場合は…「食べ物由来」の場合が多い
- ・卵(特に白身)
- ・乳製品
- ・大豆(豆腐や納豆など)
- ・小麦(うどんやパンなど)
- ・米
- ・カニやエビ
- ・蕎麦 など
大人の場合は…「環境由来」の場合が多い
- ・ダニ
- ・ハウスダスト
- ・カビ
- ・細菌
- ・花粉
- ・ペット など
※アトピー素因(アレルギー体質)や、皮膚のバリア機能機能の悪化以外に考えられる原因として、清潔でない手で皮膚をかくことや、不規則な生活や睡眠不足、長時間にわたり皮膚に加わる強い刺激やストレスが加わることなども挙げられます。
3. アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎の主な症状は強いかゆみのある湿疹が、身体の様々な部位に繰り返して現れます。特徴として左右対称に湿疹がでることが多く、顔、首、ひじ、ひざに現れ、全身へと広がることもあります。
皮膚の状態は、全体的に乾燥しやすい傾向にあり、乾燥によって皮が剥けることもあります。急性期であれば、赤みを伴う紅斑や、ブツブツした丘疹やジュクジュクした症状があります。慢性期であれば、ゴワゴワした皮膚になり苔癬化します。また重症の場合は強いかゆみのある丘疹が多発した状態の痒疹が現れます。湿疹を繰り返す場所は茶色っぽい色素沈着がおこりこともあります。
また、アトピー性皮膚炎の皮膚は刺激に敏感になっているので、少しの刺激で炎症が起き、かゆみを感じやすいです。無意識のうちに引っ搔いてしまい、それが刺激となって皮膚のバリアが壊れてしまうことで、さらにかゆみや炎症がひどくなってしまうといった「かゆみの悪循環」に陥ることがあります。
4. アトピー性皮膚炎の診断
アトピー性皮膚炎は、特徴的な皮膚疾患であることから、視認での診断が可能です。また診断基準として「かゆみがあるか」「湿疹が出てい
る部位や湿疹の種類・特徴を確認」「半年以上(乳児の場合は2カ月以上)にわたって、状態が良いときと悪いときを繰り返しているかどう
か」といった点を確認し、アトピー性皮膚炎か否かを判断します。
さらにアトピー性皮膚炎では軽微症状から重症までの4つの段階に「重症度」を評価し、重症度のめやすをもとに適切な治療を行うことが大切です。皮膚の乾燥状態から、皮膚が硬くなった状態や腫れてしまってジュクジュクの状態など、さまざまな段階があります。それぞれの皮疹の「重症度」を基準に判断しています。
5. アトピー性皮膚炎の検査
アトピー性皮膚炎の検査は必要に応じて下記のものを実施します。
血液検査:好酸球・IgE・TARCなどアレルギー反応で上昇する値を調べる
アレルゲンの検査:アレルギー反応を起こす原因の有無を調べる
皮膚テスト:アレルゲンのより詳しい検査が必要な場合に行う
アレルゲンの検査:アレルギー反応を起こす原因を調べる
6. アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎は今までかゆみと炎症をコントロールすることが難しい疾患でしたが、注射や内服などの「全身療法」の登場によって、日常生活に支障が出ない状態に症状を抑えることができるように治療の選択肢が広がってきました。
アトピー性皮膚炎の「外用療法」
当院において、アトピー性皮膚炎の「外用薬(塗り薬)」の選択肢は多岐にわたります。
保険適応で処方する外用薬(塗り薬)としては、ステロイド外用薬、プロトピック軟膏、コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏があります。
ステロイド外用薬
プロトピック軟膏
コレクチム軟膏
モイゼルト軟膏
アトピー性皮膚炎の「全身療法」
中等症以上のアトピー性皮膚炎の患者様に対して、「全身療法」の薬剤が次第に増えてきました。「全身療法」とは、患部に局所的に薬を塗る「外用療法」ではなく、全身に対して行う治療のことです。近年では新しい作用機序による治療法が次々と承認されていますので、新たな治療の選択肢が増えています。
<生物学的製剤>
生物学的製剤とは、化学的に合成されたものではなく、バイオテクノロジー技術によって生み出された医薬品のことです。生体が作る抗体(たんぱく質)を人工的につくり、それを薬物として使用した新しいタイプの薬です。
・デュピクセント(皮下注射)
アトピー性皮膚炎の注射薬であるデュピクセントは2018年1月に承認されました。全く新しい作用機序による注射です。アトピー性皮膚炎の湿疹やかゆみの原因を根本からブロックする効果を期待できる薬剤です。しかしながら、誰でも使用できるというわけではありません。15歳以上の方のみ治療が可能です。また現時点ではまだデュピクセントの薬剤費が高額であることもふまえて考慮が必要です。
<JAK(ジャック)阻害薬>
免疫を活性化するシグナルの伝達に大切な役割を果たす酵素のJAK(ヤヌスキナーゼ)に対して、その働きをブロックすることで炎症を抑える薬です。もともとは関節リウマチの治療として先行使用されていましたが、アトピー性皮膚炎の治療法として承認され処方できるようになりました。いずれの内服薬(飲み薬)も、1日1回の服用で、アトピー性皮膚炎の炎症をコントロールすることができます。また、服用開始早期の段階からかゆみや湿疹などの自覚症状の改善を期待できます。ただし、それぞれの内服薬において、治療が可能な年齢が異なります。
・リンヴォック錠
リンヴォック錠は、2021年8月、アトピー性皮膚炎の新しい治療法として承認された内服薬(飲み薬)で、12歳以上から使用できます。
・オルミエント錠
オルミエント錠は、2020年12月、アトピー性皮膚炎の新しい治療法として承認された内服薬(飲み薬)で、15歳以上から使用できます。
・サイバインコ錠
サイバンコ錠は、2021年12月、アトピー性皮膚炎の新しい治療法として承認された内服薬(飲み薬)で12歳以上から使用できます。
これらのアトピー性皮膚炎の「全身療法」はとても高額な治療ではありますが、患者様の負担軽減のために様々な医療費助成がございます。従来の治療を続けているにも関わらず、かゆみや湿疹が繰り返し、コントロールが不十分なアトピー性皮膚炎の患者様にとっては「全身療法」は、ご検討いただく価値がある治療法です。 当院ではお困りの症状を丁寧にお聞きし、それぞれの効果や副作用に加え、患者様おひとりおひとりのライフスタイルなどを総合的に判断し、患者様と相談しながら最良の治療法を選択するよう、心がけております。「全身療法」にご興味がおありの患者様は、お気軽に当院までご相談ください。
スキンケア
アトピー性皮膚炎の治療には、低下した皮膚のバリア機能回復と、保湿の為のスキンケアがとても大切です。皮膚が清潔に保たれていることで、皮膚症状の悪化を防ぎます。また、保湿剤や保護剤を使うことで、皮膚のバリア機能を回復するだけでなく、アレルゲンの侵入を予防します。
アトピー性皮膚炎の患者様は、皮膚が乾燥している状態なので、全身に保湿剤を塗布することが必要です。見た目では乾燥がわかりにくい場合でも、必ず全身を保湿するようにしましょう。さらに保湿は、乳児のアトピー性皮膚炎の発症予防にも効果的で、出征直後から保湿外用薬を使用することによって発症リスクを下げるといわれています。
7. 予防と日常生活での注意点
アトピー性皮膚炎の予防でにおいて、もっとも効果的なのは「保湿」です。そして、入浴などによって、皮膚の状態を「清潔」に保つことです。
乾燥を防ぐ入浴法として、お風呂の温度は38℃から40℃に設定します。そして、乾燥がひどい部位や、冬場などの乾燥が強い時期などは、石鹸を使う頻度を減らして身体を洗い清潔に保つようにしましょう。石鹸は低刺激性で添加物が少ないものを選ぶことがおすすめです。
また、「掻かないこと」「かゆくない状態をつくること」が悪化させないために重要です。書くことで「かゆみの悪循環」に陥ってしまい皮膚の状態が悪化してしまうからです。
アトピー性皮膚炎はなかなか完治することが難しい病気のひとつです。仮に見た目に症状がない場合でも、再発を繰り返すケースは外用薬を使い続けることが必要です。根気強く外用薬を使用することと、日常生活における生活習慣に気を付けて、アトピー性皮膚炎と上手く付き合っていくことが大切です。